5月29日(水)、来日中のライプツィヒ・ゲヴァントハウスオーケストラのゲネプロを聴くという幸運に恵まれました!場所はサントリーホール。

指揮はアンドリス・ネルソンス、ラトヴィア出身、オーケストラにオペラにもっとも活躍著しい指揮者です。

そして!マーラーの歌曲「子供の不思議な角笛」を歌うのは、トーマス・ハンプソン!!世界でももっとも人気のあるバリトンの1人。

飽きることなく観たDVDといえば、ハンプソンのモーツァルトの「ドン・ジョバンニ」。レポレッロにイルデブラント・ダルカンジェロという2人のスター共演で、学校から借りてどれほど繰り返し観たことでしょうか!

歌といい、身のこなしといい、飄々とした演技といい、絶妙なペアのやり取りは、女性陣歌手の存在を薄くしてしまうほどの印象で、また借りてみようっと思っています。

そのハンプソンのゲネプロへのお誘いとなれば、何をおいても聴きに行かねば!と心が高鳴ったワタクシは、そういう時ばかりはどんな早起きも物ともせず、しっかり6時起きして出かけていきました。

もちろん、本当はコンサートそのものを聴きに行きたかったのですが、サントリーホールでの2日間は都合がつかず、都民劇場公演はすでにSold out。それに東京のいずれの3回公演ともハンプソンの出演はなしで、違うプログラムなのです。

この日のサントリーホールでの夜公演は、さる会社のクローズド公演だそうで、聴ける方々は羨ましい限り。

それでとにかく。。。

誘ってくれたのは、ゲヴァントハウスオーケストラのコントラバス奏者で、ポーランドでお世話になっている音楽評論家アダム・ロズラフの弟スワヴェク・ロズラフです。

余談ですが、この兄弟はなんだってこれほど見た目が似ていないのか、二人とも音楽の別々の分野で優秀であることこそ共通ですが、見た目の違いは想像を絶するので、私はついにスワヴェクに聞いてしまいました。

「お母様が違うの?」

「いや、年が15歳も違うからなぁ。それに僕は父の家系似で、アダムは母親の家系似なんだよ。姉のグラジーナを覚えているだろ。彼女も母親の方だから、僕だけ違う。」

スワヴェクだけ、モデルでも活躍できそうなルックスなのです。

余談はともかく、ゲネプロの後は話す時間がないから、朝食を一緒に食べようということになって、宿泊ホテルのオークラで朝食を食べました。ブレックファストという言葉がぴったりのおしゃれなブッフェ。

・・・といってもオケの他のメンバーも入れ替わり立ち代わりやってくるので、そうそう話すこともできず、途中からは別のコントラバス奏者エベルハルトさんが仲間に加わりました。

エベルハルトさんは、J.S.Bachの妻、アンナ・マグダレーナの研究もしている音楽学者でもあるとのこと、最近本も出版したそうです。

朝食もそこそこ、目と鼻の先のサントリーホールに向かいます。

10時。さてネルソンスとハンプソンが登場して、ゲネプロ開始です。

二人とも並々ならぬ存在感。客席にいるのは私も含めてほんの数人。

ネルソンスのタクトはとても冴えがあり、振りが大きい部分と小さい部分のコントラストが大きい。

ハンプソンは今夜に備えてもちろん本気では歌わないが、オケをバックに歌が躍動する。

すごいのは、これまでに何回も歌った曲であろうし、録音もしているにしても、オケパートも含めて曲の隅々まで熟知していて、ネルソンスをさしおいて、オケに対して英語で指示を与え、アドバイスをし、自ら指揮してしまう。管楽器のデュエットのバランスも調整するべくやり直しをさせる。

私はこの歌曲はほとんど
知らずですが、聴き進むうちに、同じマーラーの「大地の歌」に極めて似た旋律が出てくることに気が付きました。「大地の歌」は好きで、ひところ夢中になって聴いたことがあるのです。

ん?同じ旋律じゃないの。。。

後でわかったことですが、マーラーは歌曲を使いまわしていて、交響曲からテーマを取ったり、同じメロディを別の歌曲で使っているのでした。

作曲法として珍しいことではないにせよ、スワヴェクに言わせると「マーラーの歌曲は全部同じ。」乱暴なくくり方にしても、大まかにはそのような印象になるのでしょう。

  1. 歩哨の夜の歌
  2. むだな骨折り
  3. 不幸な時の慰め
  4. この歌を作ったのは誰?
  5. この世の生
  6. 魚に説教するパドヴァの聖アントニウス
  7. ラインの伝説
  8. 塔の中で迫害されている者の歌
  9. 美しいラッパが鳴りひびくところ
  10. 高い知性を賛える

ファンタジー溢れるタイトルを持つ10曲!

テキストは、ブレンターノとアルニムという二人がドイツの民俗民謡や里謡を集めた詩集からマーラーが選んだとのこと。

リストのピアノ曲に「小鳥に説教をするアッシジの聖フランチェスコ」があるけれど、マーラーは魚に説教。

「歩哨の夜の歌」はグリーグのピアノ曲にも同名の曲がある。レンブラントの傑作「夜警」も。

動物と会話するのは伝説であり、夜や闇は創作家がインスパイアされる題材なのでしょう。

このような歌曲集を殊の外得意とするハンプソン。その人柄も透けて見えます。

さらに幸運なことに、ゲネプロの後、ハンプソン夫妻と一緒になりお話しする機会に恵まれました!

サントリーホールの楽屋口から、外階段を手すりにつかまりながら一段一段エッコラさと登るハンプソンは、それなりの年齢を感じさせちょっと意外でした。

登り切ったところで、スワヴェクが、

「数年前にアムステルダムコンセルトヘボウに助っ人で弾きに行った時の、貴方のマーラーが忘れられません!」と伝えると、

「弾いてたのかい? あの時はハイティング(ベルナルト)だったね。」と嬉しそうに生き生きと語り始めました。よく喋る!

ステージでのオーラとは違う自然体のハンプソン。そして暖かい握手。

どこかで必ず本番を聴きに行こうっ!

楠原祥子