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さて、今回は私が通っている学校、パリ国立音楽院でのオペラ稽古の模様をお伝えしたいと思います。

今年はロッシーニ作曲、『ランスへの旅』というオペラです。
フランス国王(シャルル10世)の戴冠式を観に来たヨーロッパ各国の人々が保養地ホテルに集まり、ドタバタコメディーを繰り広げる喜劇オペラです。

前回のプーランクオペラと大きく違うところは、私たちが置かれたコンディションです。
フランスのオペラハウスで行われている過程とほぼ同じ情況で、オペラを創り上げていきます。

具体的には、指揮者は各国のオペラハウスでタクトを振っている現役の方をおよびし、演出家や指揮者が不在の時には代理をするアシスタント指揮者、大道具、小道具、照明、音響調整、衣装、メイク、稽古など予定を組むオペラ運営の各担当者など、多くの人々に支えられながら準備して、全5公演に向けて仕上げていきます。

私たちピアニストはオーケストラに受け渡すまでのピアノ稽古を担当します。
まず、指揮者と歌手たちの音楽稽古に付き合い、その後演出家が加わって演技を加えていきます。
演出家が入ると、色々細かい演技を歌手たちに要求するので、ひいては演奏中断が繰り返されます。
mf_02この時しっかり頭に音楽が入っていないと、演技が主導権を握ってしまい、“動作に合わせた音楽”、となってしまうため、演出家が入る前の音楽稽古がとても重要なのです。

ここ2週間、週末を除く午後5時間、練習に明け暮れました。

指揮者はイタリア人、陽気で気さくな親しみやすい方でした。
不思議なもので、経験豊富な指揮者が振るとその手から音楽が伝わってきて、パワーをもらったような感じになり、演奏も助けられ、とても楽に演奏ができるのです。
もちろん指揮者との相性もありますが、室内楽とはまた違った音楽の共有ができてとても楽しいです。
具体的に指揮者とどのような稽古をするかというと、解釈を共に考えて同じ音楽観を持つようにします。

書かれたテキストから、登場人物がどういう人間なのか、オペラの中ではどういう存在で描かれているのか、言葉の使い回しはポピュラーか、それともブルジョワ系か…
これらを明解にするために、作曲者が残したテンポ表示、リズム等を一緒に分析していきます。
今回の指揮者はよく歌う人だったので、私たちピアニストが彼の意向に沿わない音楽を奏でると、

ウンパッパ…ラァ〜ド〜ミィ〜〜♪ ♪  ♪

などと歌って音楽の方向性、キャラクターを示してくれました。

mf_03私たちピアニストのお仕事最終日は、ピアノでのリハーサル=通し稽古をすることになっています。
しかし結局、今回は最終場面でまだ演出の問題が残っていたため、止まりながらの練習になり、完全に通しませんでした。

しかし、オーケストラに渡す前に今までやってきた演出、音楽の総仕上げということでオペラ全部を一度通します。
頭では流れを理解しているつもりでも、いつもは演出創りのため度々止まっての稽古なので、いざ通してみると、次はなんだっけ??と、思っている以上に集中を要し、なかなかの大仕事です。

学校行事でもあるため、ひとつの経験として、私たちピアニストは公演日全ての字幕担当も行います(イタリア語なのでフランス語の字幕が必要になります)。
そして、今回は特別にピアノフォルテという前世代のピアノを使って、少しだけ舞台演奏もあります。

本番の舞台に歌手たちと立つことはないけれど、それに、カーテンコールの拍手で呼ばれることはないけれど、私はこのコレペティートルという役が大好きです。
今年もまた素敵な思い出がひとつできました。
同時にこれを仕事にしていけたら、と夢に向かう意欲を押される経験でもありました。

深谷ますみ