IMG_26532日目、リサイタル試験では20分から30分の間で1つのオペラを演奏会用にプログラムを構成し、演奏します。

私は、ストーリーも音楽も好きなフランスオペラ、グノーのファウストを選びました。
もちろん先生も手伝っての選曲でしたが、抜粋と言っても自分が好きなものをポンポンと入れていくわけにはいかなく、ストーリーの発展や曲と曲の間のつなぎが不自然にならないよう、前後の調性を考えたりとなかなか大変でした。
そして1番大変だったのはオペラ”ファウスト”の魅力を30分内で聴かせること。
3時間近くあるオペラを30分にまとめるのはそう簡単ではありません。

私としては最終幕にあるファウスト、メフィストフェレス、マルグリットのトリオ(3重唱)を入れたかったのですが、時間制限、ストーリーのつなぎ、そして歌手たちにとってもこのトリオはとても難しいということもあり断念し、1幕のファウストがメフィストフェレスを呼ぶシーンから始め、ファウストがマルグリットに近づく2幕のクアチュオール(4重唱)の場面までというプログラムにしました。

プログラムが決まったら次は歌手のキャスティング。
そして合わせの日程作り。
6月は学期末試験シーズンのため、本格的な合わせは試験2週間前からしか始められませんでしたが、みなさん私のために本当に頑張ってくれました。
コンサート形式で歌うのが伝統的な形でしたが今年はリサイタル試験の日に例年よりも大きな部屋が取れたため、少しだけ演出も加えて演奏することにしました。
演出と言っても、入退場の仕方、歌っている間の動きなど本当にベーシックなことですが。

IMG_2692そして、このリサイタル試験準備の間、心に残る温かい出来事があったので書いておきたいと思います。
歌手たちにとって暗譜で歌うというのは怖いものです。
それが母国語でなければきっと更に暗譜への不安、そして費やす時間も増すと思います。
メフィストフェレス役を受けてくれたドイツ人歌手。
彼は6月中旬に彼自身の卒業試験があったため、私への練習や合わせの時間は試験後からしかできない、と言っていました。
クアチュオールは以前歌ったことがあり問題ないと言っていましたが、他の部分は初めて歌うということで先生も2週間弱の準備期間で大丈夫だろうか、という不安は持っていました。
初めての合わせ。
歌手によくあるパターン、初見でやってきました。
そうなると音楽的な助言に入る前にまず、基本の音取り、リズム、歌詞などに問題が出てきます。
彼の場合もこのケース。
私も大丈夫かしら…と不安になりましたが、合わせの終わり際に彼が一言。
「演出も入れるなら君は僕に暗譜で歌ってほしいの?君が考えていることを理想の試験コンディションを教えて。なぜなら、僕は君の試験を素敵な試験になるようお手伝いしたいから僕もベストを尽くしたいんだ。」
と言ってくれ、見事に有言実行。
試験日にはミス1つなく音楽性も付け加え、演出も1番積極的にやってくれました。

なぜ私が彼の言葉に感動したのか?
それは、私たち伴奏者というのは普段、誰かのために時間を費やしていることが多い分、人のために何かをする、ということがどれだけ大変なこと、時にはプレッシャー、費やす練習時間などを知っているからです。
また、信頼関係がないとこの誰かのために費やすやる気、というのもなかなか出ないのでは、と思います。
よちよち初見から暗譜、演出までもこなせるようになるまで、彼が私に費やしてくれた時間、気持ちがとても嬉しかったのです。

この話はほんの一部です。
このコレペティのクラスに入学してからの3年間、このような温かい瞬間がいくつもありました。
そんな環境に自分がいたこと、そんな環境で学べたこと、全ての経験が私を育ててくれました。
そして、試験を聞きに駆けつけてくれた友人たち、試験前に時間を惜しまず私に助言してくれた友人。
試験後、彼らは温かい言葉で私を包んでくれました。

と、今自分にできることをとりあえずやり遂げた、という感じだったので成績は気にしていませんでした。
自分としてはすでに反省点もたくさんみつけていたので、本当に成績発表の時は驚きました。
驚きすぎて、成績結果と自分の評価された長所を消化するのに時間がかかりました。

音楽に終わりはないし、上をみればきりがないのですが、今回の経験をいい意味で自信にし、9月からの新しい出発を機に更に成長していきたいと今思っています。

深谷ますみ