ショパンやシマノフスキ作曲のマズルカは、そのもとには、農民や山人の土着のマズルカがあります。ダンスはもともと大地と人間の生活の営みから生まれたものです。

ショパンは青年の頃に田舎で農民たちのダンスやメロディを見聞きしました。それは、楽譜などまったく読めない、日々小麦やじゃがいも畑を耕す荒れた手を持つ農民たち心の声Dozynkiでした。

では、ショパンやシマノフスキは、土着の民俗旋律のいったい何にそれほど創作意欲をかきたてられたのでしょうか。彼らの心を突き動かす何が農民山人の声にあったのでしょうか。

そこに私はマズルカなどダンスの神秘を感じ、本質を見ることになるのではないかと思っています。

 

それでは最初にマズルカについて。他のポーランド舞曲にはない固有の特徴をあげてみましょう。

まず即興性。ジャズと同じく、土着のマズルカは即興をしながらその場限りで音楽を作り上げます。ダンスの方も、Lowiczバロック時代の音楽のように自由に飾り=ワザを加えていきます。

例えば、足を横に振り上げて両足のかかとを打ち合わせるワザ、片足を前に出してかがむワザなどです。感覚的に見事なワザをはめ込む“村一番の踊り手”が村のスターになります。

 

次に言葉や生活との密着性。単純な農作業をくり返す時には自然にリズムが生まれます。えんやこーら えんやこーらのポーランド農村版と思えばよいでしょうか。小麦を脱穀する時や、ザワークラウト用にキャベツを刻む作業がマズルカリズムになっているといいます。

またマズルカはダンスと歌の部分と両方があり、ポーランド語は第2音節にアクセントがあるので2拍目が強調されます。ダンスの方は両足をそろえる“止め”がくる3拍目にアクセントが入ります。

もう一つ、陶酔を引き起こすリズムを取りあげましょう。ポルカのように急速なテンポではないのに、マズルカは楽師や踊り手を陶酔の境地に至らせることがあります。

タタターター、タタタータタ、というシンプルなリズムと旋律を繰り返すうちに音量も勢いも増してトランス状態に引き込まれる・・・ステージ上で失神してしまうロックギタリストと同じことが土着のマズルカでも起こるのです。

マズルカの奥深くには、強烈な情感をもたらす何かが暗号化されて潜んでいるのだ、と農民たちは言いますが、ダンスの旋回とリズムの反復とが渦になって脳天を突き抜けるのかもしれません。

 

さてポロネーズに話を移しましょう。ポロネーズとは?と問われれば、ポーランド民族の精神のシンボルである、とポロネーズ シュラフタいう一言に尽きます。哀しみはポロネーズで乗り越え、喜びはポロネーズで分かち合う。心の団結と民族の誇りをポロネーズで謳い上げてきたのです。

ダンスとしてのポロネーズは、舞踏会のオープニングの合図として、広間に入場する際のウォーキングダンスに使われます。男性が堂々と威厳に満ちて自らの権威や力を表し、女性はかたわらに添えられた一輪の花となってお互いを引き立て合います。男性の闘いの精神と、女性の優しさや美しさが絶妙な調和をみせるダンスです。

 

最後にクラコヴィアクについて申し添えましょう。ショパンのピアノ協奏曲第1番の第3楽章はクラコヴィアクでできています。クラコフ地方のダンスで、マズルカやポロネーズとの大きな違いは、2拍子でシンコペーションと馬のギャロップリズムを持つことです。

13世紀に騎馬民族タタール人がクラコフに迫り、聖マリア教会の塔の上から来襲を告げるラッパが鳴り響きました。突然、ラッパの音は途絶え、ラッパ手は敵が放った矢で喉を射抜かれていたのでした。そして町は炎上。クラコフのこのような歴史的背景から、ギャロップを舞い、走り跳ぶ軽快なステップを持つクラコヴィアクが生まれたのです。

 

2015年4月4日(土)ダンス・ダンス・ダンス!ポーランド舞曲!

楠原祥子 ピティナ公開録音コンサートプログラムノート

参考文献:Mazurki do wynajecia