OLYMPUS DIGITAL CAMERA

「ショパンの手紙を読みながら~」のコンサートで、ハイライトにした一つは、ジョルジュ・サンドのマジョルカ島滞在の回想です。ショパン『24の前奏曲』が、いかに極限状態で作曲されたものか。

歓喜、不安、怖れ、幻滅、憤怒。。。。心の光と影の一つ一つに、私の心も共鳴せずにいられませんでした。

 

  • ジョルジュ・サンドの回想 (マジョルカ島ヴァルデモーサ 1839年1月頃のこと)

今は亡き偉大な芸術家はひどい病人であった。私が危惧していたことが現実となったが、不幸にもそれは予想を超えるものであった。

彼は身体の苦痛には健気にも耐えていたが、妄想が作り出す不安に打ち克つことができなかった。身体の具合がよい時でさえ、修道院は彼にとって恐怖と幻影に満ちていたのだから。彼はそれを口に出して言うことがなかったから見抜かねばならなかった。

ショパンとサンドが滞在したカルトゥジオ修道院の二人の部屋の前の廊下

ショパンとサンドが滞在したカルトゥジオ修道院の二人の部屋の前の廊下

子供たちと一緒に私が夜、廃墟と化した修道院の中を探検して戻ってくると、彼は真っ青な顔をし、目を血走らせ、髪の毛を逆立たせてピアノの前に座っていた。彼には私たちだとすぐにはわからなかった。

それから笑顔を見せようと努め、作曲したばかりの崇高な旋律を、というよりもむしろ、独りぼっちの、淋しい、恐怖に満ちたこの時間に、気づかぬうちに彼の心をとらえていた恐ろしい考えや、胸を引き裂くほども悲痛な想念をピアノに移すのであった。

彼が謙虚にも『プレリュード』と名付けた、短くはあるが、この上なく美しい曲を作り出したのはこうした時であった。それらはまぎれもなく卓越した作品であり、いくつかは、すでにこの世にいない修道士たちの幻影であり、また彼につきまとって離れない葬送の歌を聞かせる。

ショパンがマジョルカ島で作曲に使ったプレイエルピアノ

ショパンがマジョルカ島で作曲に使ったプレイエルピアノ

物悲しく、それでいて甘美な曲もある。それらはあたりに陽光が満ち、健康に恵まれていた時に、窓辺にはじける子供たちの笑い声や、遠くに聞こえるギターの調べ、あるいは、湿った葉陰でさえずる鳥の声を耳にし、雪の上に咲いた青白い小さなバラを目にした時に彼の心に浮かんだものだ。

やるせない哀愁が漂う曲もあり、耳に心地よく響きながらも、深い悲しみで心をひたす。そうした曲のなかに、陰鬱な雨の夜、恐ろしいほど打ちひしがれた魂からほとばしりでたものがある。

 

その日は、身体の調子がとても良かった彼を残して、私はモーリスを連れ、仮住まいに必要なものをパルマまで買いに出かけた。雨が降りはじめ、川が急激に氾濫した。

ヴァルデモサ 修道院全景

ヴァルデモサ 修道院全景

3リューの道のりを戻って来るのに6時間もかかったほどの洪水であったが、途方もない危険のなか、貸馬車の御者に放り出され、靴さえなくして、真夜中にやっと辿り着いた。病人が不安になっているだろうと急いだ。

果たして、彼の不安は激しいものであったが、凍りついてしまったように、絶望の果ての落ち着きのなかにあった。そして、涙を流しながら、美しいプレリュードを弾いていた。

私たちが入って来るのを目にすると、大きな叫び声を上げて立ち上がった。それから、錯乱した様子で、そして奇妙な口調で、「あぁ、僕にはよくわかっていましたよ、あなた方が死んでしまったのが!」と言った。

ショパンとサンドが住んだ部屋

ショパンとサンドが住んだ部屋

 

彼が正気を取り戻して、私たちの様子を見た時、彼は私たちが直面した危険を思い浮かべ、その光景を残らず夢見たこと、そしてこの夢と現実の区別ができなくなり自分も同じように死んでいると言い聞かせて、ピアノを弾くことで気持ちを鎮め、まどろんだようになっていたことを私に打ち明けた。

彼は湖で溺れている自分の姿を見ていたのだ。重く、氷のように冷たい水滴が彼の胸の上に規則的な間をとって落ちていた。実際、修道院の屋根の上に規則的な間隔で落ちてくる雨の音に彼の注意をうながすと、彼は、そんな音は聞かなかったと断言した。

この夜の彼の作品は、カルトゥジオ会修道院のよく響く瓦の上で反響する雨のしずくそのものだったが、そのしずくは、彼の想像と音楽のなかでは、彼の心に天から落ちるDSCF0069涙となっていたのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

サンドが手紙を交わした相手はおよそ2,300人に達するといい、それは私たちでもよく名前を知る一流の芸術家、作家、思想家、学者、詩人、政治家、皇帝皇族たち。。

例えば作家は、バルザック、サント・ブーヴ、ハイネ、ラマルティーヌ、デュマ、ヴィクトル・ユゴー、ツルゲーネフ、ボードレール、エミール・ゾラ、ドーデなど

ジョルジュ・サンド

ジョルジュ・サンド

芸術家は、ドラクロア、アングル、リスト、ベルリオーズ、グノーなど、まさに19世紀の社会そのものです。