ショパンは何版で弾いていますか?と時々聞かれます。

私自身はエキエル版を使っています。

これには二つの理由があり、最も大きな理由は、エキエル先生が来日された時にレクチャーの通訳として全国のレクチャーに同行させて頂き、“校訂”とはどういう仕事で、ショパンの校訂はどのように行っているか、極めて詳しくお聞きすることができたことです。

もう一つの理由は桐朋の学生時代に遡り、海外からの招聘教授が「パデレフスキ版は不完全である。」とマスタークラスで仰ったことにあります。版についてまったく知識がなかった頃ですから、その言葉は重みを持つものでした。

今年のショパン国際コンクールでは、エキエル版にそれほどのこだわりは見受けられず、いまだに24の前ショパンコンクール2015ステージ奏曲などでも、三連符と付点音符を合わせない演奏者もいることに驚きを感じたほどです。5年前のコンクールで優勝したユリアンナ・アブディエヴァは、徹底してエキエル版で演奏していました。音の違いですぐに聴き分けることができます。

ポーランド国立版=通称エキエル版は、ショパンの原典版、つまり作曲者の意図を忠実に反映することを前提に出版されたショパン全集です。

エキエル先生は、戦前の第3回ショパン国際コンクールでマウツジンスキと共に入賞したほどの優れたピアニストでしたが、戦後まもなく国からの依頼で校訂の仕事に取り掛かり、ショパン作品を“演奏”ではなく、“楽譜”を整えることに生涯を捧げて世界に広めたのです。

私のポーランドの師、バルバラ・ヘッセ・ブコフスカで同門のクリストフ・グラボフスキは、ペータースマズルカCDブコフスカ先生135原典版のワルツを校訂しています。

このペータース原典版が出版されるまでには、かなりの時間を要し、グラボフスキと会うたびに、「いつ出版されるの?」と聞く私。「間もなくだよ、もうすぐだ。」と答えるグラボフスキ。おそらくは、このやり取りを私たちは5年以上繰り返した末に、ようやく出版されました。

ペータース原典版は、フランス初版をベースにしており、極めてシンプルな譜で、少し手ごわい。。。と感じます。いわば譜が親切ではないので、ほかの版と併用したくなるのです。

さて、そのような事情もあって、常にショパンの版については敏感にアンテナを張っています。先日、11月9日に、ヤマハ銀座コンサートサロンで岡部玲子先生による『ショパンの楽譜、どの版を選べばいいの?~楽譜から見えてくる本当のショパン像~』の講座があり行ってきました。

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