話が少し前後しますが、ウィーンの話に戻しましょう。

ウィーン国立歌劇場です!ヨーロッパの中でももっとも安定して名声を保ち続けているオペラハウスです。

そして、ジュール・マスネの『マノン』!

3月7日(土)に上演されると知るやいなや、それならワルシャワからウィーンに行こう!と決めたのでした。

今シーズン、アンナ・ネトレプコの『マノン』がここの華。相手役の騎士デ・グリューはロベルト・アラーニャ。

もちろんそれだったらさらに興奮したのですが、私が観たのはアイリーン・ペレスAilyn Perezの『マノン』です。

どこのオペラハウスも、シーズン中2組のキャストで演目が行われており、片方がネトレプコのようにアイコン大スターだったりすると、もう1組の方はいくらか華が薄れて感じられますが、いえいえ、アイレン・ペレスもメトロポリタン歌劇場で歌っているスターソプラノの1人で、さすがに満席のにぎわいです。

私の席は2列めの右端。そこが取れたことが幸いでした!あとはポツンポツンと上の階で取ることもできましたが、上の階の場合、7,8人ずつの小部屋になっていて、一番前でないとちょっと見にくいのです。

それにその“小部屋”というのがなんだか馴染みにくい。いかにもオペラハウスならではですけど。。。やっぱり平土間の普通席が慣れていて、正面で観ることができていいです!

このコロナウィルスのご時勢を鑑みてでしょうか、入り口そばには手の消毒装置が置かれています。でもマスクをしている人はまったくいません。

座席数1700。でもこの歌劇場、建物の造りが古いからかもしれませんが、すきま風がヒュヒュ〜っと入って肌寒いくらい。換気はよろしそうです。

劇場内に入るとその規模の大きさや豪華さに圧倒されます。やっぱり素晴らしいです。いい感じ。

緞帳も演目によって変わるらしく、マノンはフラミンゴを抽象化して大雑把にイラストした風。内部の雰囲気とはまったく合わない気もしますが、色合いを合わせてあり良くも悪くもミスマッチ!

ずっと以前のことになりますが、ここで観たのはスターメゾソプラノの出演で、もう演目が何だったか忘れてしまいましたが、とにかく現代ものでした。その時は上階の“小部屋”で。

飛行機のように前の席の背中にモニターが付いていて、ここに字幕が表示されます。日本語も!!助かるわ。

19時。開演です。

マノンが登場して、????!!!! バスガイドさん???!!!

いえまさか。。。

現代版演出だと、まったく衣装が変わってしまうから戸惑います。地方からパリの駅に到着したばかりのマノンの筋書きはそのまま。ただ服が、グレーのスーツに帽子と革のスーツケース。だから、ちょっとガイドさんぽく見える。。。!

美しいというよりコケティッシュで可愛いマノン。艷やかないい声!身長は低め、オペラ歌手にあっては小柄に感じられます。

その後に登場した騎士デ・グリューは、ちょっとこの方(Jean-Francois Borras)見た目は騎士としてはいただけません。お声は素晴らしいですけど。

なぜか猫背。太っている。ヘアが中途半端に長い。ひげもじゃら。なんなのかしら。もうちょっときれいにならないものかしら。

でも声はリリックで艷やかなテノール。目を閉じて聴くことにします。

早くも私は、2幕のあの場面の夢の歌に思いを馳せ、この人はどうやって歌うのかしらとどきどきします。

衣装が現代版ですから、当然歌い方もそれ相応にすっきりとしたものになり、間のとり方なども大げさではありません。

オペラで馴染めないことの一つと言われているのは、どうってことはない歌詞なのに、たいそう大仰な歌いまわしをすること。それは例えば、日本の童謡やわらべうたをオペラ歌手が歌うと、まったく違う大げさな歌と化して、思わず笑ってしまうのと同様です。

『私達が食事をしてきたこの小さいテーブル。これともお別れね。』という歌詞が妙に大仰になって、オペラとはこういうものだと心して聴かないと吹き出してしまう。

でも今回はちょうど、衣装も含めて演出と歌唱のすっきり感が合致しています。

2幕の騎士デ・グリューの『夢』のアリア。とても正確な音程と豊かな声量と表現力。聴く者の心の襞までふるわせるほどのニュアンスには欠けるかもしれませんが、生で初めて聴くこのアリアにはやはりうっとりでした。目はちゃんと開いて聴きました!

3幕の有名なマノンのガヴォット。これはかなり豪華絢爛さが削ぎ落とされている演出。

林安喜子先生だったら、やっぱりこういう現代演出はね〜と眉をひそめそうですが、私はオペラ好きの新米なので、こういう現代版もすんなり受け入れられます。

現代版であってもミュージカルのようなセリフが入る軽さはなく、歌だけで聴かせることに変わりはありません。

2人が別れた後、マノンがデ・グリューに教会に会いに行く場面。マノンが想いを切々と訴えるのに対して、聖職者となっているデ・グリューは激しく拒否します。ここはとてもスリリングで観ごたえたっぷりでした。

このあたり、本当に素晴らしい歌唱が続き、息遣いや動きの隅々まで、顔や手の表情、指先の一本一本の動きまでが、物を言うよりはるかに強く、雄弁に私の心に訴えてきます。

最後、刑に服して衰弱したマノンがデ・グリューの腕の中で息絶える。

。。。のはずが、今回は少し違い、息絶えずにどこかへ姿を消してしまう演出です。デ・グリューが1人残されることに変わりないですが、こういうバージョンもまたありなのね、と知りました。

それにしても、美しいアリアに次ぐアリア。目も耳もステージに吸い寄せられたままの3時間半。観に来られてよかった!

次には誰のどんな『マノン』を観ることができるでしょうか!

https://www.wiener-staatsoper.at/en/

Wiener Staatsoper 現在は4月2日までコロナウィルス対応で公演一時中止。