写真ではハリーポッター20年後のようなセルゲイ・ババヤン!本物はまったく違う容姿でしたが、ついにリサイタルを聴きました。

やっぱり凄い!ものすごく上手くて天才的なピアニストです。

それに今日はピアノがFAZIOLI。運び込んだのでしょう、後で越智さんに聞いてみましょう。

ロシア人ピアニストで、大音響で堂々たる音楽をする人ももちろん多いけれども、つまりキーシンとかマツーエフとかに代表されるタイプと、ミニチュアがすごく上手いピアニストもいて、それは例えばネルセシアンとかトリフォノフもいくらかそちらのタイプか、ババヤンは後者に属すると思われます。

録音が少ないし、コンサートも日本ではこれまでほとんど聴く機会にも恵まれずでしたから、どんな演奏を実際にするのかわかっていなかったのです。

ではなぜこれほど聴くチャンスを心待ちにしていたか。。。

まずロシアピアノ奏法に深く傾倒している友人ピアニストが、ババヤンの音は唯一無二で、誰にもあの音は出せない、と言うのです。

音源で聴くと、確かにそうです。ショパンのワルツなど小品が独特の響きがする。

倍音を恐ろしくたくさんまとう音。

衣擦れの音。

正絹の着物を着る時に絹がふれあって、音とも言えないかすかな空気の震えを耳にするような、音を核にしてその周囲の空気の震えが可視できるような、そんな響きがするのです。

今回のリサイタルでそれが聴けたのは、めったに出すことのないFFフォルティッシモの時でした。

ほんの一瞬、倍音の光の衣がいっきにホール全体に放たれて、くずとなって消えていく、音の運命そのものを聴く瞬間。

あぁ、きっとこれだ、ババヤンだけに出せる音。

こんなに弾けるのだからもっと華々しく活動すればよいように思いますが、あまりその気もないのか、それとも英語なら「アカンパニー」、ポーランド語ならTowarzyszで、誰かと二人で一緒に音楽して、協奏しあうことで燃えるのか、何なのでしょうか。あまり表舞台でばりばり活動しないピアニストです。

今回のリサイタルも、プログラミングはオールショパンで小品ばかりです。一番の大曲はバルカローレと幻想ポロネーズ。

スタートのポロネーズ第1番Op.26-1 が終わると、拍手しそうになる聴衆を手で制して、次々輪のように弾きつないでいきます。

和声を同じにして、終わりの音と始まりの音を同一にする手法です。

次はワルツOp.64-2cis-moll だからcis-mollどうしでつなぎます。

次はcisをdesに異名同音化してバルカローレへ。バルカローレの最後の音はfisだから、次はfis-mollのワルツOp.69-2へ。

次はFis-durのノクターンOp.9-3へつなぎます。最終音はdisで、それを拾うように幻想ポロネーズへつなげます。ここから先はすべてショパンの好きなAs-dur。

幻想ポロネーズはあまりに多く転調を繰り返すので、As-durであることがあまりみえないけれども、最後の音はやはりasです。そのままAs-durの即興曲1番Op29へいきます。

次は誰も知らない曲、というか誰も弾くことがない曲で、遺作の短い前奏曲As-dur。さらりと終わります。

そして、As-durの代表格の一つ、華麗なる大ワルツ第2番で華やかに〆ます。

こういう前半。

後半はマズルカを同じ調性でつなぎにつないで19曲!

マズルカはすべてを知っているので、どの曲も、あぁこう弾くかとか、ふ~んとか、へぇぇぇとか、こうつなぐわけねとか、恍惚として聴き通しましたが、あまり知らない方はどう理解したでしょうか。

聴いていたら眠ってしまったかもしれないくらい、それは心地よい美しい音楽だったのです。

Op.6-2cis-moll   Op.63-3cis-moll  Op.63-2f-moll  Op.7-3c-moll  Op.24-4b-moll  ここまで5曲は短調でつなぎます。

最後でmollともdurともつかない摩訶不思議な終わり方をするOp.24-4の最終のモチーフを、巧みに使ってdurの世界への入り口にします。

そして、世界で最も有名なマズルカOp.7-1B-durにいきます。

この曲は最後Bで終わります。それをまたまた巧みに使って、遺作(Op.67)の2,3,4と弾きつなぎます。これはもともとつながりがよくできているもの。

それが終わると、遺作(Op.68-2)のナイチンゲールのマズルカ、次に68-3と、ここも調性のつながりというよりはもともとのつながりをそのまま利用。

次はうんと短い遺作のB-dur。これをステージで単独で弾くことはまずないので、こういうつながりの中でしか聴ける機会はないでしょう。

次も短いOp.6-4。この短い同じモチーフをひたすら繰り返すマズルカは、遊び心風に使ったのでしょう。この曲もアンコールにせよ、単独で弾くことはまずない曲ですが、独特の光彩を放ちます。

それも熱心に聴いていればこそわかるハナシ。ぼんやり聴いていたら、なんでしょうか、ぐるぐるまわりの曲くらいにしか思えないでしょう。

次は前の最終音のesを使って、Op.41-4にいき、ふいに明るくなります。この曲を{Op.41-4}としているということは、ババヤンは少なくともエキエル版を使っていないということ。パデレフスキ版なのかどうか、古い並び順のままの版ということですね。

次は調性や最終音のつながりとは関係なく、Op.30-1へ行きます。つまりババヤンはこの曲が好きなのでしょう。続いてOp30-2へ。

そしてまた最終音利用で、Op.33-4へいきます。この曲の最終部分では、空虚5度で教会の鐘の音が聞こえてきて、それをきっぱり遮るようにして終わります。

あの頃はよかったなぁ。。。いや、それはもう忘れるのだ!という感じです。

そしてもっとも土着のマズルカらしいマズルカOp.56-2ハ長調で、マズルカは締めくくります。

やおらですが、リサイタルの最終曲はネコのワルツです。Op.34-3で明るく終わり、私たちの心をいっきに明るく和ませてくれます。

暗っぽい意味深なマズルカ続きで終わっては気分も滅入るとババヤンも思ったのか、ここで一発逆転!粋な計らいです。

ショパンのミニチュア(小品)ばかりでまとめたリサイタル。それもすべての曲を毛糸で編むように弾きつないでいくという独特の方法。

ババヤン自身のやり方で、ババヤンだけが奏でることのできる音楽を聴いた一晩でした!

←アンコールはこれ。フレンチバロックのラモーです。

最近ドイツグラモフォンからリリースした、マルタ・アルゲリッチとのプロコフィエフの2台ピアノ作品ばかりを集めたアルバムをすぐにiMusicで聴きました!